大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)229号の52 判決

原告

千葉謙介

代理人

尾山宏

渡辺良夫

被告

東京都渋谷税務事務所長

小島年雄

代理人

林四寿男

外一名

主文

被告が原告に対し昭和四一年七月一五日付でした不動産取得税の賦課決定は金四万五、〇〇〇円の限度においてこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

別紙目録記載の建物は、日本住宅公団がオリンピック東京大会開催中外国報道関係者の宿泊施設を建設されたい旨の政府の要請に基づいて建築したものであり、現に、これを、昭和三九月一日から同年一一月三〇日までの三か月間、財団法人オリンピック東京大会組織委員会に対して合計一、二〇〇万円の対価をもつて貸与して外国報道関係者に使用させたこと、その後、原告が昭和四〇年三月一日日本住宅公団から右建物のうち同目録記載の部分を買い受けたところ、被告が右建物は地方税法七三条の一四第一項にいう人の居住の用に供したことのない新築住宅に該当しないとして、同条項所定の課税標準の控除をすることなく、昭和四一年七月一五日付で原告に対し不動産取得税八万四、四九〇円の賦課決定をしたことは、いずれも、当事者間に争いがない。

およそ、法律事実としての居住の概念は、法律関係の基準となるものであるから、単なる社会的事実としてのそれとは異なり、各法律ごとに、当該立法の趣旨目的に従い、また、それに付与された法的効果との関係において合理的にこれを決定すべきであるこというまでもない。

ところで、地方税法七三条の一四第一項が、「住宅を建築(新築した住宅でまだ人の居住の用に供したことのないものの購入を含む。)した場合における当該住宅の取得に対して課する不動産取得税の課税標準の算定については、一戸につき百五十万円を価格から控除するものとすると規定しているのは、不動産取得税は、不動産の取得につき、当該不動産の取得者に対して課するものであるが、新築家屋については、その家屋についての最初の使用又は譲渡(住宅金融公庫、日本住宅公団等が注文者である家屋の新築に係る請負契約に基づく当該注文者に対する請負人からの譲渡が当該家屋の新築後最初に行なわれた場合は、当該譲渡の後最初に行なわれた使用又は譲渡)が行なわれた日において家屋の取得がなされたものとみなし、その者に対して不動産取得税を課することとしているので、そのことが住宅に困窮している一般庶民の住宅の取得に障害となるのを避けるため、家屋の中でも特に住宅に限り、これを新築した者又は新築した住宅でまだ人の「居住」の用に供したことのないものを購入した者に対して課税標準減額の特典を与えんとするものであるから、ここにいう居住とは、当該住宅をその本来の用法に従つた利用に供することを指すものと解するのが相当である。

いま、本件についてこれをみるのに、日本住宅公団の設立目的が、住宅不足の著しい地域において勤労者のために耐火性を有する構造の集団住宅および宅地の大規模な供給を行なうことであり(日本住宅公団法一条、三一条参照)、また、右貸与の期間が、三か月という短期間であり、しかも、右貸与が、準備委員会において外国報道関係者の宿泊施設にふさわしい暫定的設備、調度品の備付け等をなし、オリンピック終了後原状に回復したうえで返還するとの約定のもとに行なわれたこと(この事実は、被告の認めて争わないところである。)と、右貸与料合計一、二〇〇万円は、分譲遅延による金利相当額の損失を補填するという考え方に基づき、従つて、また、右建物の分譲価額も、同建物が新築住宅、つまり、人の居住の用に供したことのない住宅であるとして算出されたこと(これらの事実は、〈証拠〉によつて認めることができる。)に徴すれば、原告主張のごとく、組織委員会による右建物の使用は、前記法条に居住の用に供したことに該当せず、従つて、原告の右建物部分の取得は、新築した住宅でまだ人の居住の用に供したことのないいものの購入に該当し、不動産取得税の課税標準の特例の適用を受けるものというべく、その適用がないものとしてなされた本件不動産取得税の賦課決定は、違法たるを免かれない。そして、本件不動産取得税の課税標準から控除すべき一五〇万円に対応する税額が四万五、〇〇〇円であることは、本件弁論の全趣旨に照らして明らかである。

よつて、右四万五、〇〇〇円の限度において本件不動産取得税の賦課決定の取消しを求める原告の請求は、その理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。(渡部吉隆 中平健吉 斎藤清実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例